第127章 どうして君なの?

有岡里穂はキャップを目深にかぶり、コートのポケットに突っ込んだ両手の震えを止められないまま、何度も深呼吸した。胸の奥から湧き上がる後悔と恐怖を、無理やり押し殺す。

「時間を無駄にすんなよ。お前がぐずぐずしてたら、あいつが起きて大騒ぎになるかもしれねえだろ」

西川英二が玄関へ歩き、片手でドア枠に体重を預ける。もう片方の手で、半開きの扉をぐい、と大きく押し開けた。

有岡里穂の心臓がきゅっと縮む。反射的に手を上げ、つばをさらに低く押さえた。

「……分かった」

そう言って彼女が出入口へ向かうと、西川英二は当たり前みたいに身をずらし、通り道を空けた。

有岡里穂は全身を張り詰めさせたまま、今...

ログインして続きを読む